アデノシンAl受容体の覚醒時活動ニューロンに対する効果を検討するにあたって、まず、どの脳領域の細胞を対象にして検討するかを動物実験によって検討した。アデノシンA1受容体選択的作動薬であるCPAを、ラットの覚醒に関わるとされている脳領域の近傍に局部投与した場合に起こる睡眠・覚醒の変化を、脳波・筋電活動を指標にして調べた。薬物投与領域としては、覚醒に関わるコリン性神経細胞の存在する吻側前脳基底部・外側視束前野、ヒスタミン性神経細胞の存在する後部視床下部を選択した。試薬は、手術によって慢性的に頭骸骨に固定したステンレス管から、これらの領域に接するクモ膜下腔に6時間、微量連続投与した。その結果、これらの脳領域においては投与初期にはむしろ覚醒が誘発されること、脳波の徐波化は投与期後半になってから認められる場合が多いことがわかった。アデノシンAl受容体作動薬の示す神経細胞活動の抑制効果においては多くの報告があり、確立された事実であると考えられるので、アデノシンAl受容体作動薬は覚醒時活動細胞の活動を抑制して、睡眠促進に寄与する可能性は十分に考えられる。しかしながら、神経細胞の一つ一つに薬物が投与されないような動物個体レベルでの実験の場合には、今回検討した領域の近傍に混在するであろうと予想される睡眠促進に関わる神経細胞の活動もまた同時に抑制してしまうことから、睡眠抑制効果が投与初期に起こるという機序が予想できた。
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