マウス小脳登上線維シナプスの生後発達に伴う変化とインターロイキン6(IL-6)の影響を調べるため、先ず始めにマウスにlipopolysaccharide(LPS)の皮下注射を行った。成熟マウスにおいて、LPSの皮下注射による小脳を含む体内各所でのIL-6の発現上昇が知られているが、本研究では登上線維シナプス除去が起こる前の、生後7日目より皮下注射を行った。その結果、注射部における腫れと全身失調が認められ、皮下注射では小脳への特異的な影響を解析するのは困難であると考えられた。そこで、IL-6などの薬物をethylene-vinyl acetate polymer (ELVAX)との混合物にし、薬物を含んだシート状のELVAX片を小脳皮質の頭蓋直下に埋め込むことにより、薬物を小脳へ継続的に局所投与する方法(ELVAX法)の開発を試みた。IL-6の小脳への作用は未知であるため、IL-6が適切にELVAXより放出されているかどうかを確認する方法はない。そこでIL-6と同様に水溶性物質であるテトロドトキシン(TTX)を、ELVAX法により小脳へ投与した。TTXはナトリウムチャンネルを阻害し神経細胞の興奮を抑制するため、TTXの投与により神経活動依存性の現象への阻害効果が期待される。生後10日目よりELVAX法をもちいてTTXを小脳へ局所投与することにより、生後3週目に見られる登上線維シナプス除去の阻害が認められた。この結果からELVAX法によりTTXなどの水溶性物質が継続的に局所投与されること、および登上線維シナプス除去は、生後10日目以降のある時期の神経活動を必要としていることが明らかとなった。この結果は平成10年3月の第75回日本生理学会大会で発表予定である。
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