研究概要 |
粥状動脈硬化症などの肥厚性血管病が動脈血管系に限局的に発症するメカニズムを解明するために,肥厚性血管病を引き起こすコレステロールの担体である低密度リポ蛋白質(LDL)の輸送に着目した解析を行った.種々の血管形状において,血管内を流れる血液から血管壁へのLDLの輸送現象を数値シミュレーションにより解析し,血管壁へのLDLの取込み量に直接的に影響を及ぼす血管内壁面におけるLDLの濃度分布と動脈硬化の好発部位との関係について検討を行った. 1. 動物実験による検討 家兎総頸動脈に紐で緩い軸対称の狭窄を施した後,低濃度のコレステロール食を与えて8〜14週間飼育し,狭窄部近傍の組織構造の変化を調べた.その結果,狭窄部下流側に局所的に内膜肥厚が生じることがわかった.同程度の狭窄を有する血管形状モデルに基づいて流れとLDLの輸送計算を行った結果,壁せん断応力が低い部位を中心に内膜肥厚が生じ,そうした部位ではLDLの壁面濃度が局所的に高くなることがわかった. 2. 実形状モデルに基づく検討 血管壁が局所的に肥厚したヒト右冠状動脈および端々吻合を施したイヌ大腿動脈を透明化し,血管形状および血管壁の厚さを測定した.得られた血管形状に基づいて血液の流れとLDL輸送の計算を行い,LDLの壁面濃度と血管壁の厚さとの関係について検討を行った.その結果,湾曲部内側や吻合部下流側などの壁せん断応力が低い部位で血管壁が肥厚し,その部位の直下でLDLの壁面濃度が局所的に高くなることがわかった. 以上の結果から,肥厚性の血管病が好発する部位として知られている壁ずり応力が低い領域では,LDLの壁面濃度が高くなり,それにより肥厚性の血管病が発症・進展する可能性が強く示唆され,血管内壁面における選択的な物質透過性に起因するLDLの流速依存性濃縮現象が,肥厚性血管病が局在化するメカニズムに深く関与していることが明らかとなった.
|