研究概要 |
近年,体内臓器の形態・機能情報をイメージングできる光を用いた生体断層イメージング(光CT)の実現に向けて様々な試みが成されている.光CTの実現において最大の問題は,生体組織による強い光散乱の影響により生体内での光路を特定できないことである.この問題に対し,本研究では新たな光による生体計測法として,音響光学効果を利用することで生体中に入射光軸に沿った光路(導波路)を作り出し,能動的に直進光を導くことを目指して基礎的検討を行った.以下に得られた知見を述べる. 1. 散乱媒質中における光子の挙動を実測とモンテカルロシミュレーションの双方により解析. (1) 散乱光成分中には入射光軸付近を伝搬する成分(近軸散乱光)が存在する. (2) この成分を取得することで十分な検出強度で空間分解能の高い計測が可能である. (3) 散乱体の光学的濃度(OD:optical density)が7以下では,出射角の違いに基づいて受光信号中から近軸散乱光を分離検出することが可能である. 2. 超音波照射による散乱媒質の屈折率変化ならびに照射光の変調特性を計測,解析. (1) 低散乱(OD=3)ではあるが散乱媒質中においても超音波照射による屈折率変化が計測可能である. (2) 散乱係数の増加にともない,超音波照射による変調光の検出強度は指数関数的に低下する. 3. 超音波の音響エネルギーにより散乱媒質中の微小散乱粒子が局在化し計測に影響を与える可能性を時間分解法により評価. (1) 低散乱ではあるが,超音波照射時と無照射時において時間分解波形に明確な差違はなく,局在化による計測への影響は認められなかった. 以上,本研究の結果は音響光学効果の利用により従来の光CT計測法を変えることなく適用限界を広げる可能性を示す基礎データとなるものである.
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