研究概要 |
本研究課題では、ポリマー中の光学活性基が細胞の接着性やその機能にどのような効果を示すのかを明らかにすることを目的とした。培養には、神経伝達物質であるドーパミンを合成・分泌するPC12細胞を使用した。試験に使用した材料は、エナンチオマー(D-体とL-体)とラセミ体のそれぞれのモノマーからなる3種類のポリマーである。 昨年度、確立した合成方法により、側鎖に水酸基を有する光学活性基なメタクリルアミド誘導体と、これらのモノマーを使い通常のラジカル重合によりポリマーを合成した。これらの材料は、元素分析、NMR,IR,GPCなどから同定を行い、旋光度測定からそれぞれのポリマーが特有の旋光性を確認した。各ポリマーのメタール溶液を、クリーンベンチ内で組織培養用シャーレ上に5ml注ぎ込んでコートして細胞培養床を作製した。ポリマー表面の物性評価として、接触角測定とXPSによる表面近傍の化学組成比測定を行った結果、いずれのポリマー表面上もほぼ同等の化学組成と親水性の性質を示すことが分かった。PC12細胞の基本増殖培地としてDMEM(5%ウマ血清、5%ウシ血清、Gentamycin(30μg/ml)含有)培地を使用した。DMEM培地の細胞懸濁液(2-3 X 10^5cells/ml)を各シャーレに播種し、5%CO_2インキュベーター内で所定時間培養した後、細胞形態の観察や増殖性の測定を行った。その結果、PC12細胞は、良好な接着性をいずれのポリマー表面に対しても示したものの、増殖性についてはエナンチオマー体からなるポリマー上でやや有意に抑制されることが分かった。このことは、光学活性なポリマー上の細胞の分化誘導の可能性を示唆しており、同じ化学構造を有するポリマーにおいて、光学活性な性質が細胞の機能に大切な働きを示すことが考えられた。
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