研究概要 |
本研究では,聴覚感性に「聴覚ハードウェア」→「聴覚ソフトウェア」→「知識・意識データベース」からなる階層構造を仮定する.ここで,聴覚ハードウェアとは,聴覚末梢系の生理学的機能を模擬し,また聴覚ソフトウェアとは,脳内の神経回路の機能を摸擬する新しい概念である.本研究の目的は,この階層構造における,動的情報処理部を記述することである. 平成9年度は,聴覚ハードウェアおよびソフトウェアにおける動的情報処理部を解明するための研究を主に行った.具体的には,時間包絡特性が体系的に異なる振幅変調音について,音色の類似度を問う聴取実験を行った.実験結果を合成分析法により解析し,ハードウェアとしては微分器に相当する系と変調フィルタバンクの特性が大きく影響していること,また,ソフトウェアとしては,聴神経の時間・周波数興奮パターンについてユークリッド距離を計算していると考えるのが妥当であることを示した. 平成10年度は,知識・意識データベースの寄与を明らかにするための研究を主に行った.まず被験者に提示音が何の音であるかを教示せずに,種々の環境音をSD法により評価する実験を行った.次に,意識・知識データベースを駆動するために,音源の種類と録音場所を言語により予示して同様な実験を行った.さらに,視覚とのクロスモダリティを調べるために,映像を付加して同様な実験を行った.実験結果を因子分析し,以上の3条件に共通して,音色の3因子(美的因子,量的因子,明るさ因子)と,音情報に関わる4因子(音源情報に関する因子,音像定位に関わる因子,音の存在意義に関わる因子,情緒・郷愁因子)という安定した7因子を示した.また,因子得点について検討し,音の知覚に及ぼす,意識・知識データベースおよび視覚のクロスモダリティの影響を定量的に示した.
|