研究概要 |
化石のDNAを解読して系統関係を明らかにするためには,現生種ではどこの領域が種の識別に適しているかをまずもって明らかにする必要がある.化石ではDNA鎖は様々な要因により短く切断されており,出来るだけ短い範囲で種レベルでの識別が出来るような領域をサーベイする必要がある.現生日本産トウヒ属7種2変種について,全DNAを抽出し,PCR法により目的領域を増幅して,葉緑体DNA上のrbcL,matK,およびtrnT(UAA)〜trnL(UAA)5'exon (約450bp)、trnL(UAA)3'exon〜trnF(GAA)(約400bp)の2つの遺伝子間領域とtrnL(UAA)intron(約500bp)の塩基配列を解読した.その結果,日本産の7種は互いにこれらの分子情報で区別できること,2つの変種はこれらの領域では母種と区別されないことが分かった. 化石試料は次の4地域から得た.1)青森県十和田湖東方の浅水川流域および後藤側流域の露頭から,約13000年前の八戸テフラに覆われた埋没林.2)青森県の津軽半島西岸,木造町の出来島海岸の露頭から約25000年前の埋没林.3)青森市の大矢沢野田遺跡の約30000年前の埋没林を構成する泥炭層.4)仙台市三神峰の東北大学構内にある芦の口遺跡(時期不詳).出土球果を現地で採集すると供に堆積物の塊をそれぞれ200Kgほど研究室に持ち帰り,研究室内で化石を取り出して液体窒素に投入して冷凍保存した.これらの化石から全DNAを抽出し,上記と同じ領域の増幅を図って現生種と塩基配列を比較した.その結果,新郷村のトウヒ属の化石は現生のヤツガタケトウヒと完全に一致した.また,出来島海岸の化石のそれはアカエゾマツに一致した.大矢沢野田の埋没林のものは現在なお分析中である.芦の口遺跡のものからはDNA抽出に成功していない.同時に化石球果の形態をもとに同定した結果,新郷村のそれはヤツガタケトウヒに,一方出来島海岸のそれはアカエゾマツ及びヒメバラモミと認識された.このように化石の球果形態では異なった種に識別されるものがDNAでは同じであったことから,アカエゾマツの球果形態の変異について検討した結果を論文として発表した.
|