研究概要 |
これまでに知られている多様な実生形態の多くは熱帯・亜熱帯地域に生育する樹種から報告されているため,温帯地域の植物に関する調査を継続する一方,南西諸島など亜熱帯地域の樹種についての調査を積極的に展開し,日本産樹木の実生形態の多様性を明らかにすることを試みた。種子の採取,野外実生の調査は研究期間中継続して行われたが,残念ながら結実率がそれほど高くなかった年にあたったために,フィールド調査では予定してたほどの十分な成果が得られなかった。南西諸島地域からは約70種の樹種から種子を採取し播種栽培した結果,30種以上の亜熱帯性樹種について出自の明らかな実生を得ることができた。ヤマグルマ科,フサザクラ科,カツラ科,トチノキ科,イイギリ科,キブシ科,シナノキ科、キク科,グミ科、ウコギ科などについてはよい標本が得られたため優先的に詳細な検討を行った。東アジア固有の科であるヤマグルマ科,フサザクラ科,カツラ科ではいずれも地上子葉・開出子葉のMacaranga型であることがわかった。またグミ科,シナノキ科,イイギリ科,スイカズラ科,などではそれぞれの科に特徴的な毛の形質に多様性が観察された。また、亜熱帯性の樹木で特殊な実生形態をとるミフクラギ,ハスノハギリ,テリハボク,メヒルギ,サガリバナ,サキシマスオウノキなどについて詳細な解剖図を作成した。これまでに収集した実生標本の再整理を行った結果,約550種について実生が得られていることがわかった。これらについて実生形態に関する記載文や,解剖図の準備を始めた。またスキャナによる簡便な画像化を試み、科ごとに日本産樹種の実生形態に関する取りまとめを試みた。
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