研究概要 |
本研究の第一の目的であるマイクロサテライト領域を特定するための新たな方法の確立については以下の通りである。対象動物としては、マイマイガLymantria disparのDNAを用いた。まず、対象動物のサンプルから抽出・精製したDNAをプラスミドに組み込み、大腸菌中で増殖させた。その後、ヘルパーファージを用いて一本鎖にし、磁気ビーズにつけた(GT)_<25>プローブを使ってマイクロサテライト領域を持つと思われるものを採取した。プローブと目的領域が最もよくアニールする温度条件は、70℃から75℃付近であった。その後、採取したマイクロサテライト領域を含むプラスミドを二本鎖にした後、再び大腸菌中で増殖させ、プラスミドを分離して目的のDNAの塩基配列を決定した。このようにして採取された(GT)n領域を含むクローンは24クローンであり、そのうちの11ク自一ンがユニーククローンであった。第二の目的は特定されたマイクロサテライトDNA多型領域を用いた昆虫の繁殖戦略の解明である。我々は得られたマイクロサテライト領域を用いてマイマイガの父子判定を行い,繁殖戦略としての交尾後ガード行動の意義を検討した。マイマイガで,2匹のオスと順次交尾させたメスおよびその2匹のオスからDNAを抽出した。また.メスが産んだ卵内で発生した前幼虫からもDNAを抽出し,PCR法によりマイクロサテライト領域を増幅し,前幼虫各個体の父親がどちらのオスであったかを特定することに成功した。各2オス・1メスの組み合わせの場合のP_2値(2回目の交尾によって受精された卵の割合)を求めた結果,この値が大きく変異し,2回の交尾の間隔と関係があることが示唆された。従って,マイマイガの場合,オスが交尾後ガードを行うことは,メスの再交尾を遅らせることにつながり,これによって自らの精子で卵を受精できる確率を高めることができるという点で,有効な戦略であることが明らかとなった。
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