研究概要 |
本年度は,クラヴィコードに関する美学的・実践的な研究を主として行った。久保田はクラヴィコード作品を数多く作曲したC.P.E.バッハの音楽美学を,彼の標題音楽との関連において考察した。とりわけ彼の音楽美学は,音や音楽の表出性に基礎をもっており,クラヴィコードという楽器によって,最も効果的に実現されることを明らかにした。この研究は,東京学芸大学紀要第2部門人文科学編(第50集・1999年)に掲載される論文「C.P.E.バッハと標題音楽-その理念と実践-」にまとめられている。 さらに7月には,角倉一朗(東京芸術大学教授)を招き,J.S.バッハの「平均律クラヴィーア曲集」について講演を行った。ここでは特にハ長調の前奏曲の成立過程が明らかにされ,さらにこの曲集が18世紀,19世紀にどのように受容され,今日に至ったのについての研究の発表があった。 椎野はクラヴィコードの演奏法の研究を行い,10月にはチェンバロ奏者・辰巳美奈子を招き,今回の科学研究費補助金で購入したクラヴィコードで,C.P.E.バッハの作品を演奏会を開催した。 なお,ここではクラヴィコード,クラヴィーア,チェンバロという楽器名が用いられたが,18世紀にあってはこれら楽器はクラヴィーアという名前でもって総称されていた。
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