研究課題/領域番号 |
09871068
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研究種目 |
萌芽的研究
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配分区分 | 補助金 |
研究分野 |
国文学
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
閻 小妹 信州大学, 経済学部, 助教授 (70213585)
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研究期間 (年度) |
1997 – 1999
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研究課題ステータス |
完了 (1999年度)
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配分額 *注記 |
1,600千円 (直接経費: 1,600千円)
1999年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
1998年度: 600千円 (直接経費: 600千円)
1997年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
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キーワード | 一夫多妻制 / 義姉妹 / 男装麗人 / 女性同性愛 / 母権社会の痕跡 / 清代考証学 / 倫理の規範とされる詩経 / 金蘭会 / 江戸における中国才子佳人小説 / 中国才子佳人小説叢書 / 渡来中国才子佳人小説 / 渡来中国才子佳人小説叢書 / 江戸時代における渡来中国才子佳人小説の資料編 |
研究概要 |
上記の標題について、現時点では中国才子佳人小説を中心に、初期の作品15点に関する調査と分析を進めてきた。その結果を要約すると、まず、描写の視点は女性に向かれることである。 中には二人の佳人が一人の男に嫁ぐという話が多く見られる。女性同士が姉妹を結ぶタイプもあれば一人の女性が男装して他の女性との仮結婚をするタイプもある。特にその中には女性同性愛の傾向が認められたことは注目すべきところである。これほど詳細に、且つ大胆に女性同士の愛情を描き、賞賛する作品(艶本と一線画す)は中国小説史上において極めて希な存在と言えよう。むろん、この女性同士の恋愛描写は作者の空想でもなければ、突如に現れたものでもない。彼らの依拠する規範が実に上古の詩経の周南二風に遡ることができる。そこでは女性同士の求愛、恋愛が賛美されたし、また女性教育の指針として、代代后妃の行動論理の基準となっている。清の時代に中国の思想界では漢儒の毛詩に対する再評価をする気運が盛んになり、才子佳人小説に活躍する女性同士の求愛と才子との大団欒という描写はまさにこの時代の要請であろう。つまり一夫多妻性の確立に当たって、女性同士の恋愛が一つの規範として指示されたことは、恐らく古代中国社会の政治的共同幻想の成立に深く関わり、この場合は女性同士の恋愛はむしろ男性との婚姻関係を強め、子孫の繁栄とも繋がる。それは一夫多妻制度下における女性同性愛が公認され、賞賛される理由の一つと考えられる。 母権社会から父権社会への過渡期において姉妹共夫制を一夫多妻制に取り入れたことは中国文学に絶えず多くの題材を提供してきた。才子佳人小説では姉妹の結盟を前面に出して、女性同士の恋愛関係を正当化しようとしていることは儒教倫理に沿う形で出現する必然性があると考えられる。しかも男女間の恋愛物語の乏しい中国文学において女性同士の恋愛描写が閨怨詩と同じく中国文学の特性の一つと言えよう。才子佳人小説の作者たちは詩経に謳われた理想的な世界□□有能な才子の周りに才色兼備の佳人たちが嫉妬心もなく暮らす男たちの桃源郷□□を小説という手段で再現しようとしていたのではなかろうか。事実として清の乾隆時代(1750年)に、中国の広東地方で確認されていた女性同士の結盟の風習が義姉妹を結ぶ才子佳人小説の下地になる可能性も否定できないのである。
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