電子マネーを含む電子取引一般において、情報の完全性を担保し、その情報が誰に帰属するかを確実にすることが、極めて重要であるという認識は、現在、広く一般のものとなった。しかし、従来の現実の取引においては、情報の完全性と情報の帰属の確実性という問題の多くは、経験は習慣によって、必ずしも十分に自覚化されないまま理解され、仮に紛争が生じても解決されていたという側面をもっている。そして、予めの約款による取り決めという手法をとらずに実施されることも想定される電子マネーにおいて、このような電子取引一般の問題が、先鋭的に現われることが明らかになった。 情報の帰属の確実性の問題は、契約の当事者確定の問題であるものの、契約の当事者問題は、表見代理・無権代理についての議論がある反面、「本人であると詐称する」問題、すなわち、「なりすまし」問題についての議論は、著しく不足していた。かろうじて、手がかりとなるのは、手形の偽造において表見代理の規定の類推適用を認める判例の見解であり、ここから、現実の取引における「なりすまし」問題のルールを析出することが第1段階の作業として必要であることが明らかにされた。そのうえで、第2段階の作業として、電子取引におけるルールを、現実の取引におけるルールと共通して考えるべきか、異なるものとして考えるべきかを明らかにしなければならない。
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