研究概要 |
(1)春闘は,これまで日本の賃金交渉制度として安定的に機能してきた.だが,近年,春闘から離脱する企業が現れたり,交渉方式を見直す組合が出てくるなど,明らかに根本的転換期に入っている.本研究の目的は,賃金交渉制度としての春闘の現状とその将来展望を明らかにすることにある.その際,本研究のもっとも特徴的な点は,春闘当事者である労使の賃金交渉責任者や組合員個人に対してアンケート調査を行い,春闘の現状と変化方向を厳密に把握することにある. (2)本年度は,昨年度の《実態的》アンケート調査(連合組合員調査)を補完する2つの調査を実施した.第1は,連合調査と同一フォーマットによる上部団体に加盟しないA社組合の組合員調査である.この調査により,パターン・セッターに追随するようなタイプの企業における従業員の意識を知ることができる.第2は,企業の人事部の調査である.この調査により,経営側がどのような態度をもつかを明らかにすることができる.前者のA社組合員調査によれば,(1)企業内格差はここ数年で拡大してきており,組合員側も個人成績によるボーナス変動を中心に格差拡大に受容的である.(2)連合組合員と比較して主観的賃金格差に下方バイアスがあり,人事評価結果の納得度も相対的に低い.(3)こうしたことが起こるのは,格差情報が主に社内のロコミで入手されているためである.(4)社外の類似属性をもつ労働者との比較も連合組合員よりも少ない. 後者の企業調査によれば,(1)40歳ポイントで23.7%,165万円の格差が発生しており,その格差をさらに拡大させたいと考えている.(2)制度改訂の主たるものは,「賞与の業績化」「年齢給魔止」「業績給導入」である. (3)以上の結果は,人事管理の個別化の結果として,平均賃上げ額を交渉する制度としての春闘の意義は低下せざるを得ない反面,個別賃金レベルでの準拠枠組みの存在や,格差情報が企業内に限定された場合の納得度の低迷という新たな問題の発生を示しており,賃金交渉制度としての春闘の今後の展開にとって重要と思われる.
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