わが国企業の経営理念に対しては、現在まで主として2つの研究方法がとられてきたと言ってよい。すなわち、(1)個別企業の経営理念を対象としたミクロ的視点からの研究と、(2)企業の経営理念を構成するキーワードを抽出し、広範な企業のそれを集計することによって、マクロ的視点から、経営理念の全体像を捉えようとした研究である。これらの研究手法は、相互に補完的な関係にあるにもかかわらず、後者の研究がもっぱら単純な集計・分類に終始しているため、わが国企業の経営理念にみられる特徴的な諸類型が必ずしも十分に明確化されていない。そこで本研究では、わが国企業の経営理念をより的確に概観するための一つの試みとして定性分析の統計手法を導入し、分類次元をもとに類型化を行い、若干の検討を加えた。 まず、経営理念を類型化するにあたっては、第1に「企業の存在意義」(社会的貢献を重視するのか、自社の発展を重視するのか)の次元が有効であり、銀行が公器であり優れて社会的存在である側面と、他の企業と同様の経済的な存在である側面を照射していることが分かった。第2は「経営スタイル」(環境の変化への積極的な挑戦を重視するのか、利害関係者との調和を重視するのか)の次元であり、多くの先行研究で指摘されてきた和の経営の側面と組織の環境適応の側面を、あらためてここで確認する結果となった。 他方、行動指針を類型化するにあたっては、第1に「組織成員の自由度」(組織成員に対しては、自由を尊重した活性化を求めているのか、逆に規律の遵守の方を求めているのか)の次元が有効であり、特に組織成員に対する規律の遵守という銀行業の特徴が明確に表われた。第2は「コミットメントの強さ」の次元であり、組織成員の内面的・精神的レベルの意識改革とそれに伴う組織へのコミットメントの強化の方向性が明らかにされた。
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