研究概要 |
太陽系初期の高温の環境下では、星雲の水素ガスと固体または液体粒子との間で生ずる反応が惑星物質の化学進化を決定したと考えられている。平成9年度に引き続き本年度は次の点において進展があった。ここに原始太陽系星雲の水素-鉱物間反応の速度論的研究の方法が確立した。 (1) 原始太陽系の一般的圧力条件(10^<-8>-10^<-3>気圧)を全域をほぼカバーする、ミクロ流量制御計と大排気量の高真空ポンプを備えた高温炉を完成した。本装置は同上の任意の水素圧力を保ったまま、最高1600℃までの温度で反応を進行させることができる。また生成ガスのサンプル表面への再凝縮率を10%以下から50%以上までの範囲に制御できる。これにより当初の目論見通り絶対反応速度を実験から求めることができるのみならず、凝縮反応についての知見も得ることが可能となった。 (2) 固体惑星物質を代表するカンラン石と水素ガスとの高温化学反応を調べた。その結果、水素圧2x10^<-4>気圧では、水素なしの環境でカンラン石が熱分解反応によって蒸発する速さに比べて、約1000倍の速度で進行することが明らかとなった。また水素圧を変化させて行った定量実験により、反応の次数は1/2であることが判明した。これは水素分子が解離して生じた水素原子が実際の反応に関与していることを示唆している。 (3) さらに再凝縮率を制御して実験を行った結果、凝縮反応においては水酸ラジカルが反応の律速過程を決定しているという予測が得られた。 (4) 水素との反応によって生ずる同位体質量分別の実験を行った。その結果、隕石中に存在するCa,Al-rich inclusions(CAI)におけるMg,Siの大きな同位体質量分別は、水素との反応によって生じたことが推測された。 (5) 水素との反応によって生ずる難揮発性微量元素分別の実験を行った。その結果、CAIの希土類パターンを説明する傾向が見えた。
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