研究概要 |
月、小惑星表面の反射スペクトルの変化は、シリケイト中の酸化鉄が微小隕石衝突により還元されてサブミクロンスケールで金属鉄となる「宇宙風化作用(Space Weathering)」によると考えられている。パルスレーザーの照射により、微小粒子の衝突に伴う溶融・蒸発といった物理過程が再現できる。レーザー加熱で、スペクトルの変化を観察した研究はある(Moroz et al.,1996)が、現実の衝突現象よりもはるかに長いパルスレーザー(10^<-6>秒)を使い、溶融・急速冷却によるガラス質の生成を再現したにすぎない。我々は、現実の衝突に近い時間スケール(10^<-9>秒)のパルスレーザーを用いた実験を行った。10cmサイズのX-Yステージと小型の真空チェンバーによる試料面を走査するシステムを製作した。さらにIMVのプロトン照射を、東京大学原子力総合研究センターの後方散乱装置で行った。 カンラン石,鉄含有量の異なる輝石(Enstatite,Hypersthene,Diogenite)の75ミクロン以下の粉末を用いた。カンラン石では15,30mJの照射で顕著な反射率の低下と赤化が見られた。1ミクロンの吸収帯の相対深さは大きく変化しない。予想に反して輝石よりもカンラン石の方が宇宙風化作用を受け易い。ガラス化の傾向はサンプルの顕微鏡分析、X線回折分析でも見られない。プロトン照射でもカンラン石の反射率は少し減少したが、輝石の変化は小さい。プロトン照射とレーザー照射で、相乗的効果は見られない。また、レーザー照射の結果では、輝石の鉄含有量による違いは見られない。 レーザー照射後のスペクトルと小惑星のスペクトルとの比較を行った。Olivine asteroidsのスペクトルは30mJの照射の結果に極似している。また、VestaのスペクトルはEnstatiteに30mJの照射を10回行ったものに近い。Vestaの表面は1ミクロンの吸収帯が残っているが、必ずしも新しいとは限らない。推測される表面年代は10^8-10^9年でOlivine asteroidsより1桁古い。
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