研究概要 |
1.結晶構造と結晶性 13種類の生体構成アミノ酸存在下,室温で炭酸カルシウムを結晶成長させた結果,非極性アミノ酸(L-Ala,L-Val,L-Leu,L-Pro),塩基性アミノ酸(L-Lys,L-Arg)及びL-GluとL-Glnでは熱的に安定なカルサイトが成長した.しかしながら,非荷電極性アミノ酸(Gly,L-Ser,L-Thr,L-Asp)と酸性アミノ酸(L-Asp)の場合,熱的に不安定なバテライトが優位に形成された.また,この実験ではpHの影響,アミノ酸の分子量の効果は無視できた. SEM像から,カルサイトは数10μmの滑らかな表面を持つ菱面体であったのに対し,パテライト結晶は0.1μm以下の微細な粒の集合体であり,再結晶が阻害されて形成されたと考えられる. 2.結晶中のアミノ酸濃度 カルサイト100%試料のアミノ酸含有率は0.001mo1%程度と低い値を示したが,バテライトの比率が高くなるにつれてアミノ酸の含有率は高くなった.最もバテライト比が高いL-Aspでは0.219mol%で分配率0.147と高い値を示した.また,溶液中の濃度が0.5mol%程度までは分配率は一定であったが,それより高濃度になると分配率も増加した. 3.半経験的分子軌道計算 MOPAC/PM3法,ZlNDO法により,アミノ酸と炭酸カルシウムのHOMOとLUMO,静電ポテンシャルを計算し,炭酸カルシウムとアミノ酸の反応部位及び反応性を考察した.その結果,非極性及び塩基性アミノ酸に比べ酸性アミノ酸と非荷電極性アミノ酸では炭酸カルシウムと安定な結合を形成しやすいことがわかった. 4.まとめ カルサイトが熱的に安定相となる条件下では,非荷電極性及び酸性アミノ酸は沈澱形成初期に形成される熱的に不安定なバテライト結晶と安定な結合を作り,その後バテライトが熱的に安定なカルサイトヘ再結晶するのを阻害することがわかった。
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