研究概要 |
小笠原諸島父島はエルニーニョ現象の鍵を握る西太平洋暖水塊の北端にあたり,この海域のサンゴ年輪試料を用いて過去の海面水温や塩分の復元をおこなうことは,気候変動の研究において重要な意味をもつ.しかしサンゴの生育環境は島に近接した浅海底であり,サンゴ骨格に記録された水温・塩分などの指標が必ずしも外洋の環境と一致していない恐れがある.このことを検証するため,昨年度は父島宮乃浜の塊状ハマサンゴの近傍に水温・塩分測定装置(アレック電子製・MDS-CT)を設置した.今年度は,データの回収および宮乃浜のハマサンゴ骨格のコア採取のための現地調査を行った. サンゴコア採取は,小笠原諸島が国立公園に指定されており,通常の油圧式のコアラーを用いたコア採取が望ましくないことから,コンプレッサーからの圧縮空気を用いてコアラーを回転させるエアドリルを使用した.2つのハマサンゴ群体について,それぞれ70cm,140cmの2本のコアが採取できた. しかし水温・塩分データに関しては,昨年記録的な台風に見回れたためか,回収した測器が浸水しており,全くデータを回収することができなかった.このため,実測した水温・塩分とサンゴの記録の比較を行うという当初の計画は変更せざるを得なくなった. そこで98年12月に測器を修理後,浸水対策を十分に行って再び宮乃浜にMID-CTを設置した.また既存の海面水温データを,東京都立小笠原水産センターから入手した.これは父島二見湾で1974年1月から現在まで毎日測定されたものである.このデータと採取されたサンゴの水温日変化の記録がどの程度対応しているのかについて現在分析を進めている. 今回の研究では,設置した測器のデータ回収に失敗したため,予定の2年間で研究を終了することができなかったが,当初計画していた水温・塩分の実測値とサンゴの記録の比較についてもデータが回収出来次第,行う予定である.
|