本研究は、固体表面上における「表面電位」の空間分布を、原子レベルの空間分解能で明らかにすることを目的として行った。 実験は、申請者が最近開発した超高真空走査トンネル顕微鏡(STM)により行った。このSTMはいくつかの特徴を有するが、その一つは、きわめて低雑音(システム雑音〜1pA)なことである。トンネル電流一定(即ち、探針-試料間距離一定)の条件のもとで、探針を駆動するピエゾ素子の電圧に微小な変調を与え、ロックインアンプによる位相検波を行うことにより、d1nJ/dzすわち障壁高さを測定した。この方法の特徴は、常に探針-試料間隙が一定に保たれるため、熱ドリフトなどさまざまな実験的ゆらぎ要因の影響を無視できることである。また、トポグラフィ像と障壁高さ像を完全に同時に測定した。 試料としては、超高真空下で清浄化したPd(100)表面を用いた。ステップ付近において大きなコントラストが観察された。コントラストは、探針-試料距離に依存することが判った。探針が十分遠くにあるときは、Smoluchovsky効果から予測される表面電位像が観察された。逆に探針が表面に近づくと、コントラストが反転した。これはトポグラフィカルな効果によるものであると結論した。
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