研究概要 |
表題の研究を遂行するために,ルテニウム三核錯体の新規二量体9種を合成した:[{Ru_3(μ_3-O)(CH_3COO)_6(CO)(L)_2}_2(BL)](BL(架橋配位子)=ピラジン(pz),4,4'-ビピリジン(bpy),1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(dabco);L=4-ジメチルアミノピリジン(dmap),ピリジン(py),4-シアノピリジン(cpy)).これらの錯体を一電子還元しルテニウム三核骨格間混合原子価状態を発生させることの難易さを調べるため,電気化学挙動を調べた.その結果,ルテニウム三核骨格のπ電子を伝達しやすいピラジンのような架橋配位子を含む二量体系ではかなり容易に骨格間混合原子価状態が得られ熱的な分子内電子移動が発現するのに対し,π電子をもたないdabco架橋の系では骨格間混合原子価状態の発現が困難であること,bpy架橋体ではその発現が困難ではあるが不可能ではないことが明らかとなった,ピラジン架橋二量体系について,電解分光法を利用し一電子還元状態のCO伸縮振動スペクトルを測定したところ,分子内電子移動に基づく吸収帯のコアレッセンス現象が観測された.その融合の程度はターミナル配位子Lに依存し,電子供与性が高いほど大きい.吸収線形解析から速度定数(k)を見積もる方法を開発し適用し,k=9x10^<11>(L=dmap),4.5x10^<11>(L=py),3x10^<11>s^<-1>(L=cpy)を得た.分光学的吸収帯が観測時間と同じタイムスケールの化学現象により融合する現象はNMRでよく知られているが,振動スペクトルの時間領域でこのような現象が見出され速度定数として定量化したのは本研究が世界で初めてである.なお,bpy架橋系のkの上限値は,10^<10>s^<-1>の桁であることが明らかとなった.
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