研究概要 |
準安定原子電子分光(MAES、PIES)は、He^*(1s2s,2^3S)などの準安定原子を表面に衝突させ、放出された電子をエネルギー分析する方法で、固体表面最外層の情報を選択的に与える。本研究では、準安定原子の入射角(θ_i,φ_i)と放出電子の出射角(θ_e,φ_e)の相関関係に注目し、表面電子状態、特に吸着子に局在した電子状態を識別する新しい解析法を開拓を試みた。本研究で得られた具体的な成果は以下の通りである。 1.Pd(110)上のベンゼン吸着子を試料として、MAESとSTMによる実験、および分子軌道計算による解析をおこなった。室温で飽和吸着させるとこの系はc(4×2)構造をとる。He^*(2^3S)準安定原子を表面垂直方向から入射させ、様々な出射角でMAESを測定した結果、フェルミレベル近傍に吸着子-基板間相互作用に基づく反結合性準位を初めて見い出すことができた。この領域では、通常の光電子分光では、Pd4dバンドに埋没するため帰属が困難であり、角度相関MAESの有効性が明らかとなった。 2.Ni(111)上のCO吸着相およびCu多結晶上のCO凝縮相を対象として、角度相関MAESを適用した。凝縮相ではCO4σ、1π、5σバンドが明瞭に現われるが、吸着相では1πバンドが極めて弱く、逆に5σバンドは著しく強調されて出現することがわかった。これは、吸着相ではCO分子が表面で立った配向をとるために、分子軸に節面をもつ1π軌道は衝突領域で電子密度が非常に低いことを示す。また化学吸着に伴って5σ電子は電荷分離を起こすことを見い出した。
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