研究概要 |
トリアルキルアルミニウムはアルキル化剤として古くから使用されてきたが,高温を要したり,反応性が低いため他の金属錯体を共存させるなど合成上の大きな制約があった.これはトリアルキルアルミニウムの強いルイス酸性のため,本質的に"アルキルアニオン"を発生しにくいためである.これに対し申請者らは最近,トリメチルアルミニウムに当量の水を加えると,トリメチルアルミニウム自身より遥かに活性なメチル化剤が発生することを発見した.本研究は,このような「トリアルキルアルミニウム-水」系による高活性なアルキル化剤の化学的挙動を調べ,有機合成に新局面を拓くことを目的として行われたものである. 本年度の成果の概要を以下に記す. (1)トリメチルアルミニウムと水から発生するメチル化剤の構造解明 「トリメリルアルミニウム-水」の組み合わせにより生じる活性種の構造は,当初メタンが1分子発生してできるヒドロキシアランではないかと予想したが,実験の結果,トリメチルアルミニウムに水が配位した化合物が活性種である可能性が強く示唆された.現在,真の活性種の構造解明に向けてさらに検討を加えている. (2)末端エポキシドの内部からの位置および立体選択的アルキル化反応の開発 一般にアルキルリチウムや有機銅試薬などの求核試剤による末端エポキシドへの攻撃は,末端側から位置選択的に起こり内部からは起こらないことが知られている.これに対し,末端のγ,δ-エポキシアクリル酸エステルを基質に用いトリアルキルアルミニウム-水で処理すると,反応は内部から位置および立体選択的に起こり何れも単一の生成物を与えることを見出した.また,これらの反応は完全な立体反転を伴って進行することが判明した.新たに開発した末端エポキシドの立体特異的アルキル化反応は,新しい炭素-炭素結合形成反応として有用であるばかりではなく,本反応によって得られる生成物は不斉炭素、1級水酸基,二重結合,エステル基など多くの官能基を備えており,天然物合成に極めて有用なキラルビルディングブロックを提供するものと考えられる.
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