研究概要 |
2ヶのカルコゲン原子が接近した状態で2電子酸化すると、化学結合としては全く新しいジカルコゲナジカチオンが生成する。このジカチオンは環状化合物やアリール置換体では通常安定で、1,5-ジカルコゲナシクロオクタン骨格を持つ、S,Se,Teのジカチオンは単離され構造が決められている。しかし、非環状の化合物、例えばビフェニルのo,o'位、ナフタレンの1,8-位にアルキルカルコゲニル基を有する化合物では、酸化すると容易に脱アルキル化が進行し、チオスルフォニウム塩のような塩が定量的に得られた。この脱アルキル化反応を上記のカルコゲン化合物と2-メチルチオメチルフェニルアルキルスルフィド(1a)、セレニド(1b)、テルリド(1C)をモデル化合物とし、NOBF_4を用いた-CH_3CN中での酸化反応を行った。(1a)〜(1c)について反応をそれぞれ^1H-NMRにより追跡した所、いずれもジカチオンが生成するが安定性はTe>>Se>Sとなり、Te体のジカチオンは非常に安定な形で単離できた。この反応は-40℃以下で行ったが反応温度の上昇により1a,lbはアルキル基がEt,Pr,i-Pr等では脱アルキルが起こり、その際アルキル基はいずれも炭素カチオン体としてCH_3CNにトラップされ、加水分解によりN-アルキルアセトアミドに変化した。この反応の機構は速度論的実験、光学活性な1-フェネチル基を用いた立体化学の研究より、SNI型の反応で進行し、通常のSNl反応では生成し難い一級のカルボカチオンが生成することを見出した。またジカチオン種の安定性についてのab initio分子軌道計算から、ジカチオンの中心原子の電気陰性度の減少と共に脱離するアルキル炭素とカルコゲン原子間の結合次数が増加するためという結論が得られ、実験結果をよく説明している。この結果はカルコゲンジカチオンの生成により分子が強く活性化され、モノカルコゲニウムカチオンの反応より、10^<10>以上の反応性を示すことが明白になった。同様に分子内では相互作用が考え難い、1,3-,1,4-ビスアルキルチオベンゼンでは同じ条件で2分子間でのジカチオン(テトラカチオン)の生成を経由する反応を新たに見出し、新しい活性カルコゲン分子創製に成功した。
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