研究概要 |
ヒトのゲノムの中には、過去に重複を起こしたと思われる長い染色体領域が見つかっている。例えば、ヒト6番染色体の6p21.3とヒト9番染色体の9q33-q34の領域の間には、配列上の類似性を示す遺伝子が少なくとも11組存在する。そこで、これらの領域の進化様式を解明するため、それぞれの相同遺伝子について分子系統樹を作成し、遺伝子重複の時期を推定した。その結果、Retinoid X receptorや補体の遺伝子など多くの遺伝子は、脊椎動物が出現したころに重複していた。また、Heat shock protein(HSP70)の遺伝子など一部の遺伝子は、それより古い時期に重複していた。遺伝子重複の時期と物理マップを考慮することにより、これらの染色体領域が、少なくとも2回の長い染色体領域の重複と、多数回の逆位や転座などの遺伝子再編成を経験したという、進化のシナリオを推定することに成功した。 さらに、その他のヒトゲノム中の大規模な重複領域を探し出すため、すでに染色体上の位置が既知のヒトの全遺伝子の配列データを使い、相同性検索を用いた解析を行った。これまでに、564組の染色体バンドの組み合わせを、重複領域として検出することに成功した。このうち、23件は同一染色体内での重複であり、75件は常染色体とX染色体の間の重複であった。例えば、1p36と16q22には、carbonic anhydraseとNa^+/H^+ antiporterの重複遺伝子がそれぞれに存在する。また、4p16と5q33-q35には、cGMP phospho-diesterase,MSX,FGFRなどの重複遺伝子がそれぞれに存在する。これらの重複領域は、過去に起きた大規模な染色体の重複か、あるいはゲノムの倍数化の痕跡であると考えられた。こうして得られた重複領域の情報を、インターネット上で公開する準備を進めている。
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