シリコン基板上にモリブデン薄膜を成膜し、弾性的性質を示すパラメーターを定量的に測定し、薄膜における巨大なひずみ量と弾性定数以上の関連性および原因を明らかにする。薄膜はヘリコンスパッター装置を用いて、成膜条件を変化させて成膜された。薄膜におけるひずみはX線回折法によって測定した。X線回折の結果をsin^2θ法によって解析することによって、薄膜の成長方向および界面方向のひずみを測定した。また、応力は基板曲率測定法によって、弾性定数はナノインデンターならびに基板曲率法によって測定された。弾性定数の結果は測定法の依存性についても考慮した。 X線回折の結果、薄膜の成長方向は引張の、界面方向には圧縮のひずみが存在した。応力も同様であった。圧縮のひずみ、応力ともに、アルゴン流量、ターゲット出力、基板温度が低いほど増加する傾向がみられた。実験条件の範囲内で得られたひずみ、応力の最大値はそれぞれ0.6%、1700MPaにもなった。これらの値はバルク材に比べて数倍大きい値であり、基板の拘束をうけた薄膜特有の現象が観察された。これらの試料においてナノインデンターを用いて弾性定数の測定を行った結果、巨大なひずみが観測されたにもかかわらず、弾性定数はひずみ依存性を示さず、バルクの弾性定数とほぼ同じ値を示した。ところが、基板曲率法によって熱膨張の弾性変形領域から算出した弾性定数は、ひずみ依存性を示し、バルク材より30%ほど大きい値を示した。 弾性定数の異常は、曲率測定法では観察されたが、ナノインデンテーションでは観察されなかった。この原因として、ナノインデンテーションの弾性変形が3次元的であり、薄膜の成長方向における引張ひずみと界面方向における圧縮ひずみの影響が相殺されて、バルクと同じ値を示したものと思われる。これに対して、基板曲率法は界面方向の弾性定数を測定するため、巨大圧縮ひずみの影響を反映した弾性定数の異常が観察された。異常の原因は弾性非調和効果で説明される。
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