研究概要 |
Cr濃度が12〜25%の範囲で異なり,しかもNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼粉末に,分圧を様々に調整した窒素ガス雰囲気中にて種々の温度で窒素吸収焼結処理を施し,ステンレス鋼粉の窒素吸収および相変態挙動の調査,複合組織ステンレス鋼の作製および機械的性質の評価を行った結果,以下のことが明らかになった. 1.ステンレス鋼粉の窒素吸収および相変態挙動の調査 (1)圧粉体の吸収窒素濃度は,窒素分圧,温渡および鋼中のCr含有量によって様々に変化する.(i)窒素分圧の影響:窒素ガス分圧の平方根に比例して増加する,(ii)温度の影響:処理温度の上昇とともに減少する,(iii)Cr含有量の影響:Cr含有量とともに増加する. (2)処理温度での組織は,窒素の吸収に伴いフェライトからオーステナイトに変化する.ただし,窒素分圧が0.5気圧付近以下および温度が1300℃付近以上になると,窒素濃度の急激な減少に伴い,組織はフェライト単相状態のままとなる.以上のことから高温でオーステナイト単相組織が得られる最適な窒素吸収焼結処理条件は,処理温度:1200℃付近,窒素分圧:1気圧付近であることが判明した. (3)上記の処理条件で得られたオーステナイトは,Cr含有量が20%以下の鋼では冷却時に一部または全てマルテンサイトに変態し,20%以上の鋼では室温まで安定にもちきたされる. 複合組織ステンレス鋼の作製 上記の調査結果から,安定なオーステナイト組織が得られる23%Cr鋼粉末とマルテンサイト単一組織が得られる12%Cr鋼粉末を選定した.両鋼粉末を混合し窒素吸収焼結処理を施すことにより,オーステナイト組織とマルテンサイト組織から成る複合組織ステンレス鋼の作製が可能であることが明らかになった.さらに、組織割合および窒素濃度は粉末の混合割合によって正確に制御できることも確認された. 3.機械的性質の評価 機械的性質は,引張試験および三点曲げ試験により評価した.その結果,オーステナイトとマルテンサイトの複合化による機械的性質の改善はあまり見られなかった.この原因は,(1)亀裂が気孔を起点として脆性的なマルテンサイト中を伝播する,(2)2つの組織の分散状態が不均質であるためであることが判明した.
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