研究概要 |
亜音速流中の物体に起因する空力騒音は,渦騒音と呼ばれることがあるが,それは音源が流れ場の渦度ベクトルと速度ベクトルのベクトル積の発散(その非定常成分)に比例するからである.したがって,このような空力騒音を低減する有効な手段は,この音源の強さを抑制することである.その具体的方法として,筆者らは,柔毛繊維を物体面に貼付して流れ場の渦度を弱める手法を提案し,成功を収めている(鉄道総合研究所建造の大型低騒音風洞).この手法の種々の応用を考えるとき,柔毛繊維のパラメータの最適値を探索する必要があるが,現状では実験に頼らざるを得ない. そこで本研究では,柔毛の空気力学的効果を理論的にモデル化することを考えた.力点を置いて調べたのは,柔毛壁に沿う層流境界層である.まず,既存の風洞を改修し,微風速で定常な流れが実現できるようにした.そして,面密度が5万本/cm^2程度(繊維直径約10μm,繊維長さ10mm程度)の柔毛壁を採用し,柔毛壁に沿う層流境界層を実現して,境界層の速度分布を熱線流速計で測り,流れ方向の発達の様子を明らかにした.一方,柔毛繊維が流れに及ぼす影響としてもっとも重要な抗力については,柔毛繊維を円柱として扱い,低レイノルズ数の円柱に働く抗力の理論式(流速に比例する抗力)を基礎に数式表現して境界層方程式を誘導した.そして,相似解を仮定して,速度分布の理論解を求め,実験の速度分布と比較・検討し,よい一致が得られることを確認した. 柔毛繊維の抗力特性がこのように数式表現できたので,たとえば,柔毛を貼付した円柱周りの流れの計算(数値シミュレーション)が可能となり,柔毛の空力特性を評価する道が開けた.また,境界層の不安定性について理論的な計算が可能となり,対応する実験との比較により,モデルのより精密な検討が行えるようになった.
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