研究概要 |
1996年夏に大流行した腸管出血性大腸菌O157株に関して,ヒトに対する出血性下痢等の症状が激烈であるという性質をもってしては,日本中で同時多発的に色々な系統のO157株が流行した理由を説明できない.本研究では,O157株が腸内細菌群あるいは大腸菌群のなかで優勢になった微生物生態学的な理由を知るため,コリシンやファージに関する作用スペクトルを調査した.コリシンやファージを生産する細菌では,近縁な種であるほど互いの殺し合いが激しくなる傾向があるからである.また過去の研究では,コリシンを暗黙のうちに大腸菌K12株を殺すものと定義してきたので,もしO157株を殺してもK12株を殺さないものがあれば重大な情報が欠落することになり,O157株を指示菌としてコリシンを見直す必要があった. 最初に調べたO157株15種は,既知のコリシンA,D,E1,E2,E3,Ia,Ib,K,L,M,N+E4,X,cloacin DF13に対してすべて耐性であり,K12株とはコリシン感受性スペクトルがかなり違うことが推定された.次いで別のコレクションから独立の100株を選び,それぞれの培養上清が他のO157株を殺すスペクトルを調べた.100株のうち約1/3が何らかのコリシンあるいはファージを生産しており,それらに対して100株の感受性は多様であったが,自分以外のどの培養上清からも殺されない株は極めて限られていた.K12株の感受性スペクトルは予想に反してO157株のものと比較的よく似ていた.殺菌活性の有無,あるいはコリシン/ファージ耐性スペクトルと,O157株のアウトブレークとの相関は現時点では明確でない.
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