研究概要 |
魚類は他の脊椎動物とは異なり,体内の脂質レベルが高く,脂質運搬体である血漿リポタンパク質濃度もきわめて高いという特徴をもつ.本研究は,魚類の中でも血漿リポタンパク質レベルの著しく高いニホンウナギに着目し,リポタンパク質の酸化抑制機能をもつ新たなタンパク質をその血漿中に見い出すことを目的に計画され,以下のような成果を得た. 1.Cu(II)によるリポタンパク質の酸化誘導条件の確立 ニホンウナギ血漿から単離した脂質含量の高い超低密度リポタンパク質(VLDL)を,1μMのCu(II)存在下で,37℃,3時間反応させることにより,VLDL中の脂質が酸化され,マロンジアルデヒド量が有意に増加することが明らかとなった. 2.VLDLの酸化を抑制する卵黄タンパク質前駆体ビテロゲニンの存在 卵黄タンパク質前駆体であるビテロゲニンをVLDLに添加することにより,Cu(II)によるVLDLの酸化が顕著に抑制された.この酸化抑制効果は,ビテロゲニン中のアポタンパク質によるCu(II)のキレート作用によると思われた.これまで,卵巣への栄養素の運搬体と考えられていたビテロゲニンに,リポタンパク質の酸化を抑制する新たな機能の存在が明らかとなった. 3.ヘム色素結合タンパク質によるVLDLの酸化抑制 410nm付近に吸収をもつ新規なヘム色素結合タンパク質が,ニホンウナギ血漿中に存在した.このヘム色素結合タンパク質は,Cu(II)によるVLDLの酸化を顕著に抑制することが,マロンジアルデヒド量および共役ジエン含量の測定結果から明らかとなった. 本研究の結果は,体内の脂質レベルが著しく高い魚類が生体内脂質酸化の危険な環境から自己を防御する機構の一端を明らかにするものである.
|