血球系細胞に特異的に発現している非受容体型チロシンキナーゼp72syk(以下Sykと省略)はZAP70と共に2つのSH2領域を持つユニークなチロシンキナーゼ群であり、早期細胞内情報伝達においてSrcファミリーチロシンキナーゼと共役的に重要な役割をしていることが証明されている。しかしながら、血球系以外の組織においてその存在が認められてない。今回、Syk/ZAP-70と免疫学的に交叉性を示すチロシンキナーゼの精製分離に成功した。以下にこれまで得られた知見を列挙する。 1.SykのSH2領域に対する特異的抗体は分子量66kDaの細胞質型蛋白質と交叉性を示した。興味深いことにこの66kDaの蛋白質は種々のZAP-70の特異的抗体とも交叉性を示した。さらにZAP-70の特異的抗体による免疫沈降実験により強いチロシンキナーゼ活性が検出され、脳組織に発現する新規のZAP-70類似性チロシンキナーゼである可能性が示唆された。 2.この66kDaのチロシンキナーゼをZAP-70の特異的抗体によるウエスタンブロットとチロシンキナーゼ活性を指標としながら、一連のカラムクロマトグラフィーを用いて高度に精製した。その結果、複数の蛋白質と複合体を形成していることが判明し、これからの蛋白質の部分アミノ酸シークエンスを行ったところ、神経ガイダンスに重要な役割をすると推測されている機能不明な蛋白質群と一致し、このチロシンキナーゼが神経ガイダンスに関与している可能性が示唆された。 3.この66kDAのチロシンキナーゼの組織分布をZAP-70の抗体で調べた結果、神経系に特異的かつ広汎に発現しており、特に成長円錐に豊富に存在していた。また興味深いことには、ラット脳の発生過程において出生後から3週令にかけてその発現がピークになり、その後、徐々に減少しAdultでは消失していた。これらの結果より、この66kDaのチロシンキナーゼは神経系の発生に関与していることが推測された。
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