研究概要 |
分化の際に多くの遺伝子は不活性化されていく。我々は、この不可逆的な不活性化を引き起こしていると考えられている核RNA(nRNA)の存在を証明してきた。今回の研究の目的は、(1)この特異的なnRNAの塩基配列を決定するとともに、(2)DNA合成期に新しく合成されたDNA鎖とハイブリダイズして遺伝子の不活性化を継承するnRNAを合成するRNA合成酵素(RDRP)を検出・抽出・精製し、さらに(3)その遺伝子をつりあげ、塩基配列を決定することである。我々は、マウス肝細胞からRNAを抽出し、電気泳動で流した後、ナザンブロティングでセルロースフィルターに写した。次に、肝細胞では発現されていないGlial fibrillary acidic protein(GFAP)に特異的な塩基配列をDNA合成機で合成した。このcDNAをP^<32>で標識し、肝からのRNAとハイブリダイゼイションを行った。この結果、バンドが認められ、肝細胞にGFAPのRNAの存在が示唆された。これは、遺伝子を不活化しているnRNAと考えられ、nRNAの塩基配列は不活化させる遺伝子と相補的と考えられる。さらに現在、DNAの混入の可能性を防ぐために、肝細胞から得たRNAをNuclease H,Nuclease P1などで処理して検討を加えている、遺伝子の不活化を継承するためのRDRPを検出するために、マウス胎児から、Downey et al(1972)の方法で、抽出・精製の段階でFraction1,2and3と粗精製液を得た。RDRP活性の測定も同様に彼らの方法で行った。RDRP活性は、H^3-UTPの生成物への取り込み量で測定し、単位はcounts per minute(cpm)である。鋳型に、Calf thymus DNAを用いた時、Fraction1,2&3のRDRP活性は、174.5,140.0&186.5であり、rRNAを用いた時、345.0,167.5&239.0であった。さらに、mRNAに用いた時、413.0,233.5&404.0と鋳型のないnegative controlの233.0,138.5&196.0に比し高値を示し、マウス胎児にわずかながらもRNA依存性RNA合成活性の存在が示された。しかしながら、この酵素は非常に不安定であり、精製には成功していない。このRDRPの遺伝子をつりあげるのはいまだ成功しておらず、今後の検討が必要である。
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