研究概要 |
電子部品工場労働者に無月経、精子減少症、貧血が発見され、その原因物質としてフロン代替溶剤の2-ブロモプロパンが疑われた。本研究では女性生殖機能への影響を評価するために雌ラットを用いて実験を行った。36匹のWistar系処女ラットを9匹ずつ4群に分け、それぞれ0ppm,100ppm,300ppm,1,000ppmの2-ブロモプロパンに1日8時間、9週間連日曝露した。曝露前3週間と曝露開始後9週間にわたり、毎日全個体の膣スメアを採取し、性周期を同定した。曝露終了後解剖・採血し、組織標本を光顕で観察するとともに、血漿中の黄体化ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)濃度を測定した。膣スメアテストの結果は、1,000ppm曝露群では曝露開始後2週間目から性周期が延長し、最終的には9匹中4匹で連続発情状態を呈し、5匹では時折出現する発情期を挟んで発情間期が連続した。300ppm曝露群では7週目頃から発情間期の延長により性周期が有為に延長した。卵巣の光顕所見は300ppmと1,000ppm群で濃度依存的に正常な細胞数が減少した。特に、連続発情状態となった1,000ppm群の卵巣には新しい黄体形成が認められず、大部分の卵巣が閉鎖あるいは襄胞化し、残存するグラーフ卵胞内に形態学的に正常な卵子は観察されなかった。卵巣内部は大部分閉鎖卵胞由来の細胞で満たされていた。一方、延長した発情間期と時折発情期を呈するラットの卵巣では卵胞および黄体が残存した。卵巣の顕著な変化にもかかわらず、血漿中のLHおよびFSH濃度は有意な変化を示さなかった。この実験結果は2-ブロモプロパンが女性生殖機能に特異的な毒性を有すること、2-ブロモプロパンの女性生殖器毒性の評価法として、性周期の変化の観察、卵巣の病理形態学的変化の観察が有効であることを明らかにした。
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