研究概要 |
我々は心筋梗塞患者の部検心においてアンジオテンシン変換酵素(ACE)の発現が亢進していることを報告している。この発現亢進は繊維芽細胞のみならず心筋細胞自身からの分泌亢進であり、組織内レニン-アンジオテンシン系の重要性を示唆している。しかしながら、このACEの発現機構については不明な点が数多くあり、最近ではフリーラジカルの関与が示唆されている。我々はこの発現のメカニズムについてのin vitroの実験系に取り組んでいる。我々はラット心室筋を用いた培養心筋細胞系を確立した。この系は、心筋および非心筋を分離して採取、培養する方法であり、その純度は現在、国際的に高い評価を得ている。 これまで培養ラット心筋モデルにおいては、ACEの発現は確認されていなかったが、今回RT-PCRを用いてラット心筋純培養系においてもACE遺伝子が発現していることを確認した。我々はこれまでラット心室筋を用いて、肥大過程におけるナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP)が著明に発現することを確認している。よって、ANP、BNPを用いることで最も適したpositive controlが得られる。本研究の予備的実験としてTNF-α,IL-1βがANP,BNPの発現を急激に増加させることを新たに見出した。TNF-α,IL-1βは、ラジカルを介する酵素反応系を刺激し、ANP、BNPを発現させている可能性がる。このラジカル反応を阻害するためPDTC,NACを使用してANP、BNPおよびACEの発現の変化を見ていると、予備実験ながらこれらの発現の程度が変化する可能性を見出した。つまり、この研究の方向の妥当性が明らかとなった。今後、この実験系を基にさらに発展させ、培養系におけるACEの発現とラジカル反応系とのかかわり、さらにはその他の心筋から分泌される神経液性因子の情報伝達系が飛躍的に明らかになっていくものと思われる。
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