申請者は本助成により、先ず細胞培養環境を実験装置或いは物理的処理によらずに低酸素環境にする手法を各種ヒト神経膠芽腫細胞を用いて検討し、一酸化窒素(NO)産生細胞と非産生細胞の共存培養を発案、樹立した。その系を用いて低酸素環境に置かれたNO非産生細胞のNOを介した細胞間シグナル伝達系およびp53蛋白質をキ-蛋白質とする細胞内シグナル伝達系の動態等を解析し、以下のことが解明された。 (1)誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の放射線および温熱による誘導発現は変異型p53遺伝子保有細胞においてのみ観察され、NOの放出による亜硝酸塩・硝酸塩の培地内濃度の上昇がみられた。この培地中の亜硝酸塩・硝酸塩濃度の上昇はNOSの特的阻害剤であるアミノグアニジン存在下において抑制され、培地中の亜硝酸塩・硝酸塩濃度の上昇はiNOSの誘導に起因することが確認された。 (2)NO産生細胞と共存培養された(低酸素環境に置かれた)野生型p53遺伝子保有非NO産生細胞において、野生型p53蛋白質およびhsp72ストレス蛋白質の蓄積誘導が観察され、NO(低酸素環境)を介する細胞間シグナル伝達系とp53およびhsp72蛋白質の蓄積誘導のための細胞内シグナル伝達系の連動現象が見出された。この非NO産生細胞におけるNOを媒体とする細胞間シグナル伝達系を介した細胞内シグナル伝達系によるp53およびhsp72蛋白質の蓄積誘導はiNOSの特的阻害剤であるアミノグアニジン存在下において抑制され、p53およびhsp72蛋白質の蓄積誘導はiNOSの誘導およびそれに伴うNO産生に起因することが確認された。 (3)変異型p53遺伝子保有NO産生細胞を10時間培養した培養液中での野生型p53遺伝子保有非NO産生細胞の放射線感受性および温熱感受性は、通常の培地中でのそれらに比べ抵抗性を示し、NO等の産生による微小環境変化により放射線および温熱に対する細胞致死感受性が修飾される可能性が示峻された。
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