研究概要 |
副腎皮質のステロイド産生臓器としての機能発現には、ホルモン原料であるコレステロールをコレステロールエステル(CE)として常時細胞内に貯蓄しておくことが必須である。一般には、このCEはLDL(低比重リポタンパク質)を受容体介在エンドサイトーシスしたものに由来すると考えられていた。しかし、最近、動物を用いたin vivoの実験から、実際はHDL(高比重リポタンパク質)のCEの選択的輸送系(selective holesterol ester uptake)が非常に優位に作動していることが判明した。さらに最近、このCEの選択的輸送系がSR-BI(type I, class B scavenger receptor)と呼ばれる細胞膜分子によって担われていることが証明され、にわかに注目されている(Acton et al., Science 271:518-520,1996)。しかし、HDL粒子のコアに存在するCEが、選択的に細胞質へ移行するには、何らかの機序によって細胞膜を通過する必要があり、細胞生物学的に一見奇異且つ新規なこの現象が、SR-BI単独で行われているかは不明である。これに対し我々は、HDL-CEの副腎皮質細胞への選択的輸送系を、HDLの細胞への結合、CEの細胞内への移行、及びCEの細胞内輸送、の三つの過程に分けて考え、それぞれの経路の変異株を細胞遺伝学的に分離・解析し、その分子レベルでのメカニズムを解明することによって、マシナリーの同定を試みた。CEに構造的に類似した毒素(25-ヒドロキシコレステロールオリエント)をHDL粒子に組み込み、これを突然変異剤処理した副腎皮質細胞(Y-1細胞)と保温して生き残る変異株を選別した。現在、この細胞のスクリーニングが進行中であり、得られた変異株を細胞生物学的に解析し、変異部位を同定すれば、発現クローニングによって目的の分子マシナリーを解明することが可能である。今後、各過程の変異株の分離とその解析、更に変異分子の同定を並行して行っていく。
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