研究概要 |
【目的】高分子物質との複合化により,液状で直接注入が可能で,人の体温に応答して固形化する温度応答性ゾル-ゲル相転移型DDS,即ち生体に最小限の侵襲で効率良く標的組織に薬物が浸透する,インプラント型の新しいdrugdelivery system(DDS)を開発し,現在なお治療成績不良な進行膵癌の治療法として確立することを目的とする。【方法】担体としてN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)とコモノマーをテトラヒドロフラン(THF)溶媒中,重合開始剤(AIBN)を加え60℃の恒温状態で15時間重合し,冷却後ジエチルエーテル内で析出することによりラジカル共重合反応のポリマーをコモノマーの種類および組成を変化させて合成した。Lower critical solution temperature(LCST)を測定し,それぞれの共重合体の50w/v%の水溶液(ゾル)に5-Fluorouracil(5-FU)を混合,これを試験管内に37℃でゲル化させた。このDDS試料を生食に浸漬し,分光法を用いてin vitroにおける薬物の放出挙動を測定し検討した。さらに,ヒト膵癌株化細胞を移植したヌードマウスを用い,組織集積性と副作用について検討した。【結果】NIPAAmに対してコモノマーの重合組成が増加するに従い,LCSTが著しく変化した。また,NIPAAmに対して10mol%のアクリルアミド(AAM),メチルメタクリレート(MMA),グリシジルメタクリレート(GMA)をコモノマーとして用いた場合,AAm,MMA,GMAの順で放出が制御され,さらにGMAの重合組成を変えた共重合体を担体に用いてところ,GMA組成の増加に従い5-FU放出が制御された。さらにヌードマウスの背部皮下に移植したヒト膵癌株化細胞にNIPAAm-GMA-5FU複合体(腫瘍体積1cm3当たり7mgの5-FU含有DDS)を注入したところ,抗腫瘍効果と非癌組織に無害であることを証明した。【考察・結語】高分子としてNIPAAmの共重合が最も有効であることを確認し,コモノマーとしてLCSTが体温より充分に低く,5-FU放出量を容易に抑制出来るGMAの組成10mol%のポリマーの選択が最良と考えられた。また,ヒト膵癌株化細胞移植ヌードマウスを用いた検討により抗腫瘍効果と非癌組織に無害であることを確認し,将来臨床応用への可能性があることを明らかにした。
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