研究概要 |
これまでに我々は,メラトニン合成酵素の一つで,正常組織では松果体と網膜に特異的に発現しているHIOMT(Hydroxyindole-O-methyltransferase)が松果体実質細胞性腫瘍において高頻度に発現していることを,mRNAレベルで確認し,同蛋白の腫瘍マーカーとしての有用性を強調してきた。今回の萌芽的研究では,HIOMTの発現を蛋白質レベルで検索すべく抗ヒトHIOMT抗体の作製を試みている。 平成9年度は,松果体実質細胞性腫瘍におけるHIOMTの発現の有無を,症例を追加してin situhybridization法により検索し,ほとんどの症例においてHIOMT mRNAが発現していることを確認した。さらに,ヒト網膜芽細胞腫細胞株であるY79cellsより抽出したtotal RNAからHIOMT cDNAの全長を合成・精製し,このHIOMT cDNAを発現ベクターに導入し,glutathione-S-transrerase(GST)/HIOMT融合蛋白を作製した。 平成10年度に行った研究内容と結果を以下に示す。 1. 抗ヒトHIOMT抗体を得るための抗原を作製すべくGST/HIOMT融合蛋白の精製を試みたが,大腸菌からの抽出段階で可溶化が得られなかった。融合蛋白が合成された後にinclusion bodiesが形成されることがその原因と考え,種々の変性剤を使用してその可溶化を試みたが,最終的に水溶性分画に融合蛋白を溶出させることはできなかった。 2. 次に,HIOMT cDNAの中で,より親水性の強いアミノ酸を多くコードしている部分を部分的に合成し,昨年度と同様の方法でGST/HIOMT融合蛋白を作製し精製を試みたが,結果は同様であった。 3. 現在,HIOMT cDNAの全長,或いは一部をもとに,N末端にhistidine tagを付加した蛋白を合成し,ニッケルカラムで抽出する方法を用いて,抗原の精製を試みているところである。
|