研究概要 |
これまで私達は妊娠ラットにMyleranを投与し胎仔に誘発した撓側列欠損に対して肢芽の細胞死と妊娠末期胎児の手掌の皮膚紋理を観察し,妊娠12.0日前後に臨界期があること,肢芽発生時期における肢芽全体、または掌側に認められる間葉細胞の壊死が撓側列欠損の形成に関与していること、細胞の分裂増殖に関与するシグナル異常が、成因であることを報告した。今回は本症の成因をさらに検討するために,本モデルにおける形態形成遺伝子の解析を行った。解析は,肢芽の前後軸を決定している,shh,Hoxd-11,Hoxd-12,Hoxd-13に関して行った。正常な肢芽において,shhは肢芽後端の中枢葉領域(極性化活性帯)に認められる。Hoxd遺伝子は脊柱動物のホメオボックス遺伝子でありHoxd-11,Hoxd-12は肢芽の後半部で、Hoxd-13は手関節より遠位で特異的に発現することが分かっている。妊娠10.0日目のWKAH/Hkmラットに20mg/kgのMyleranを投与し,妊娠12.0〜13.0日の間に母ラットを開腹して胎仔を取り出した。また,妊娠12.0〜13.0日の対照群も採取した。in situハイブリダイゼーションを行ない,対照群とMyleran投与群におけるshh,Hoxd-11,Hoxd-12,Hoxd-13の発現を実体顕微鏡下で比較検討した。観察した胎仔数はshh,Hoxd-11,Hoxd-12,Hoxd-13とも10匹,対照群は各4匹であった。対照群と比較したMyleran投与群においてshhおよび,Hoxd-11,Hoxd-12,Hoxd-13の形態形成遺伝子の発現部位に差異は認められなかった。 前回報告した実験で,ラットの撓側列欠損の肢芽的細胞死は撓側に限局しなかったことから,肢芽発生時期における形態形成遺伝子の関与が考えられた。
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