研究概要 |
上咽頭癌の治療法は放射線治療,化学療法が中心であるが,現在その5年生存率は30-40%程度である.そのために上咽頭癌の新たな治療法,遺伝子治療の研究および確立を当研究の目的とした.ウイルスは細胞に感染すると細胞内で無限増殖しその細胞を死滅させる.上咽頭癌細胞内にはEpatein-Barr virus(EBV)が潜伏感染する一方で,EBVを潜伏感染からウイルス産生状態すなわち無限増殖に導入する前初期遺伝子産物,Z蛋白(Z),R蛋白(R)をEBVは産生している.当教室と共同研究を行っているノースカロライナ大学にてin vitroの実験では,ZとRのキメラ蛋白RAZが細胞内でのZとRの不活化に関与し,EBVの潜伏感染維持に働いていることが発見された.そこでこのRAZ遺伝子のアンチセンスDNAを作製し上咽頭癌に導入すれば,RAZの機能が抑制されZとRの機能が活性化される.すなわち上咽頭癌細胞はEBVが無限増殖の状態に入るために死滅していくことが予想される.この治療方法はEBVが潜伏感染する上咽頭癌細胞のみに作用する治療方法であり,正常組織に対する副作用は論理的には考えられない.そこでRAZを標的とした遺伝子治療の対象となる上咽頭癌患者の臨床条件を調べるために,血清中のRAZ抗体価をELISA法にて測定するように試みた.まずその前段階として血清中のZとRの抗体価の測定を行った.各々のプラスミドからバクテリアを用いてZとRを作製した.次にこれら蛋白を用いて,患者血清と正常者血清中の各々の抗体の有無をウエスタンブロッティング法にて検討した.各々の抗体に一致して正常者では検出されないバンドが患者血清にて認められた.次にELISA法にて測定を行ったところ,患者血清では正常者に比し有意な抗体価の上昇が検出された.同様な方法でRAZの検出も行い遺伝子治療に結び付けていく予定である.
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