研究概要 |
薬物副作用による歯肉増殖症の発症機構とアポトーシス関連癌遺伝子との関係について調べるために,ニフェジピンとフェニトインにより誘発された12例の増殖歯肉組織と5例の対照歯肉の上皮においてbcl-2,c-mycのそれぞれの遺伝子の発現について調べた。bcl-2の発現は,増殖歯肉12例中全例に,また対照歯肉でも5例中全例に認められた。しかし,増殖歯肉では基底細胞層と基底細胞層上方の上皮細胞の核に認められたのに対して,対照歯肉では基底細胞の核に限局した発現であった。bcl-2には細胞の最終分化とアポトーシスを阻害する作用のあることがわかっており;増殖歯肉上皮でのbcl-2の発現の増加により上皮細胞の最終分化が抑制され,また細胞の寿命が延長されているものと考えられる。一方,c-mycの発現は増殖歯肉12例中9例に基底細胞層と基底細胞層上方の上皮細胞の核に発現していたが、対象歯肉5例ではc-mycの発現がみられないか、または極めて弱いものであった。c-mycには上皮細胞の増殖を促進する作用がある一方で,アポトーシスを誘発する作用がある。そしてこのアポトーシス誘発作用がbcl-2により阻害されることが報告されている。したがって,bcl-2はc-mycがアポトーシスを引き起こすことなく,上皮細胞の増殖を促進するということを可能にしている。これらのことから,上皮細胞の最終分化とアポトーシスに対するbcl-2の阻害作用ならびにc-mycとbcl-2の相互作用による上皮細胞の増殖促進が,歯肉増殖症の肥厚上皮の形成や不全角化に関係していると考えられた。
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