研究概要 |
1.心のはたらきを体系的に分類した唯識説の心所論の分類法に基づいて,質問紙法を作成した.心所論にはいくつかの分類体系があるが,今回は6位51法を採用した.(1)常に働いている基本的な心の作用(遍行の心所)の下位項目5,(2)認識対象の違いによって生ずる個別的な心の作用(別境の心所)の下位項目5,(3)自己の向上につながる心の作用(善の心所)の下位項目11,(4)心身を悩まし煩わせる心のとらわれ作用(煩悩の心所)の下位項目6,(5)派生的に生ずる様々な心のとらわれ作用(随煩悩の心所)の下位項目20,(6)はたらき方が一定していない心の作用(不定の心所)の下位項目4,の内容を日常用語へと意訳した70項目を作成した. 2.「気づきととらわれ」第一試案を用いて実施した大学生200名を対象とした第1回目の予備調査の解析では,心の複合的な作用を日常的に理解しやすい13因子が抽出されたが,3件法尺度では,不良項目が多いこと(天上効果等),信頼係数からみた内的整合性が不十分であることが判明した.質問紙法第2試案(5件法・質問内容の部分修正)を用いた大学生270名を対象とした調査結果からは,因子10〜13因子が抽出された.回答傾向はほぼ正規分布を示し,信頼係数は0.9と改善が見られ,同時に実施したストレス尺度得点との相関も高いことが判明した.日本人の生活風土に密着した日常的な自己理解に関連した「気づきととらわれ」尺度としての実用性をもつ可能性が示唆された.今後は,異なる年齢層を対象とした調査を実施して信頼性と妥当性を検討し,「病気や障害」の主観的体験との関連を性を検討する必要性がある.
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