本研究は生理的疲労の増大により作業パフォーマンスが低下するという疲労研究の前提の正否を検討する基礎資料として、実験を通じて作業パフォーマンスを評価できる指標と生理的疲労を評価できる生理的指標の両者の時間的推移を比較検討し、両者の時系列的関連の定量的検討を示すことを目的として行われた。 VDT作業として、横一列に提示された1桁の4数字を、左から順次加算、減算、乗算のいずれかを行い解が1となる演算プロセスを、+、-、×を用いてキーボードより入力させる作業を2日間各60分間ずつ被験者に課し、作業パフォーマンスの指標として処理時間を計測した。また同時に生理的指標として心電図を連続で計測し、R-R間隔時系列を求めた。なお実験の初日は作業習熟及び心電図計測の慣れのために行い、2日めのみ解析対象とした。 この60分間の作業パフォーマンスと生理的指標の時間的推移の時系列的関連を検討するために、処理時間の時系列とR-R間隔時系列のコヒーレンスを求めたところ、全ての被験者に対して0.05〜0.40Hzの範囲で高いコヒーレンスが示された。このことから生理的指標と作業パフォーマンスの時間的推移には密接な時系列的関連が存在することを定量的に示唆できた。 ところでR-R間隔時系列の周波数解析によって得られる各周波数成分帯(0.05〜0.15Hz及び0.15〜0.40Hz)の大きさには生理的負担、疲労が反映されることが知られているが、本実験における処理時間の時系列とR-R間隔時系列のフェイズからは、被験者毎かつその周波数帯毎に両者の時間的前後関係が異なることが示唆され、総合的な作業パフォーマンスと生理的疲労との間の時間的前後関係についてまでは知見を得ることはできず、課題として残された。
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