研究概要 |
次世代の大型放射光施設として,兵庫県・播磨科学公園都市に8GeVのエネルギーを持つSPring-8が建設され,タンパク質結晶解析用共同利用ビームライン(BL41XU)の利用が開始された.これまでに全く経験のない超高輝度高エネルギーX線を用いて,タンパク質結晶学の研究を遂行する場合,高エネルギーX線によるタンパク質結晶の急激な劣化・損傷の防止,測定時間の大幅な短縮に基づく二次元回折計の特性向上の必要性など,予想を超える実験上の問題が生じる可能性を否定できない.本研究では,SPring-8のタンパク質結晶解析用共同利用ビームラインを利用したタンパク質結晶からの回折強度測定を実際に行い,従来の放射光を利用したデータと比較検討することでその性能評価を行い,実際の利用で生じた諸問題の解決に取り組んだ.このビームラインにおける回折強度測定を、ラン色細菌Anacystis nidulansの光回復酵素,光合成細菌Chromatium tepidumの反応中心複合体などの結晶を用いて実際に行った結果,次のようなことが明らかになった.1)強度,集光性など,ビームの特性は予想を上まわる優れたものであった.ラン色細菌の光回復酵素,光合成細菌の反応中心複合体のいずれでも2A分解能を越える回折が観測でき,これらは従来の放射光を用いた実験結果を凌ぐものであった.しかしながら,ビームラインの立ち上げ時の問題から,電子密度の質,最終構造を精密化した時の結晶学的R値などによる比較には至らなかった.2)放射線によるタンパク質結晶の急激な劣化の問題は深刻で,タンパク質結晶を凍結して行う極低温での測定は不可欠であり,凍結溶剤の検索など技術開発の重要性が再認識された.結論としては,Spring-8のタンパク質結晶学研究への有効性,重要性が明確になり,今後ビームラインにおける測定の自動化などの改良を行うことによって,その利用への重要性はさらに大きくなるものと思われる.
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