研究概要 |
我々は、アデノウイルスを用いて中枢神経細胞における遺伝子発現の可視化を試みている。初めに、zif268遺伝子とムスカリン性アセチルコリン受容体M_4サブタイプの遺伝子のプロモーター領域をβガラクトシダーゼやGFPにつないだアデノウイルスを作製し、これらがzif268やM_4の遺伝子発現パターンを再現するかどうかを、神経系、及び非神経系の培養細胞を用いて調べた。しかし、これらのアデノウイルスは、いずれも内在性のzif268やM_4の遺伝子発現パターンを再現しなかった。zif268プロモーターによる遺伝子発現はグリア細胞において顕著であったのに対して、神経細胞では見られなかった。一方、M_4プロモーターによる遺伝子発現は、グリア細胞、神経細胞のどちらでも検出不可能であった。そこで、近年開発されたCre/loxPシステム[Sato et al.,(1997)BBRC244,455-462]を用いて、M_4プロモーターによる遺伝子発現を検出可能なレベルにまで増強させることを試みた。我々はM_4プロモーターの様々な断片にcre遺伝子をつないだアデノウイルスを作製し、これらを、Creの結合によって二つのloxP配列に挟まれたDNA配列が欠失し、βガラクトシダーゼを発現するようになるレポーターアデノウイルスと共に、神経系の培養細胞であるPC12D細胞やNG108-15細胞、及び非神経系の培養細胞である3Y-1B細胞に感染させた。その結果、通常M_4受容体を発現している神経系の培養細胞にこれらのアデノウイルスを感染させることにより、βガラクトシダーゼの発現が非常に強く見られた。それに対して、通常はM_4受容体を発現していない非神経系の培養細胞にこれらのアデノウイルスを感染させても、βガラクトシダーゼの発現はほとんど見られなかった。そして、M_4プロモーターからNRSE/RE-1サイレンサー配列を欠失させると、神経系、非神経系を問わず、βガラクトシダーゼの発現が非常に強く見られた。これらの結果は、検出不可能であった細胞種特異的な遺伝子発現をCre/loxPシステムによって検出可能なレベルにまで高めることができたということを明確に表している。
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