研究概要 |
我々の研究室で開発してきた遷移金属錯体を用いた、有機化合物中の強い結合(有機ニトリル中のC-CN結合、シアナミド中のN-CN結合、シアナート中のO-CN結合など)の切断反応に関する知見をもとに、強い結合であるシリルシアニド中のSi-CN結合切断反応に挑戦した。 シクロペンタジエニル環およびその誘導体を配位子とする鉄、モリブデン、およびタングステン錯体を触媒前駆体として用いて、^tBuMe_2SiCNと種々のヒドロシラン(R_3SiH:R3=Et3, ^nPr_3, ^nBu_3, ^nHex_3, ^iPr_3, Me_2Ph,MePh2,Ph3,PhCH_2Me_2)との反応を検討した。その結果いずれの場合も、^4BuMe_2SiHとR_3SiCNが生成することを見出した。これより、Si-CN結合が切断されていることが明らかとなった。なかでも、CpFe(CO)2Me:tBuMe2SiCN:Et3SiHを1:10:100のモル比で反応させた場合にTONが6.2となることが分かった。以前我々の研究室で鉄錯体を触媒としてMeCNとEt_3SiHを反応させるとC-CN結合が切断されてEt_3SiCNが生成することを報告しているが、この反応系中で生成したEt3SiCNは共存するEt_3SiHと鉄錯体触媒存在下でさらに反応して、Si-CNとSi-H間で結合の組み換え反応が起こっていることが分かった。触媒反応機構を明らかにする目的で、CpFe(CO)(py)(SiR3)とtBuMe2SiCNの化学量論反応を調べ、N-シリルη^2-シリルイミノ鉄錯体が生成することを見出した。これより、鉄シリル錯体にシリルシアニドのCN部分がη^2配位し、その後鉄上のシリル基がシアノ窒素に転位することで最終的にSi-CN結合切断反応が進行していることが実験的に示された。
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