研究概要 |
平成22年度は、一層型から多層型の銅酸化物高温超伝導体における反強磁性と超伝導の競合・共存関係を統一的に理解するため、理論研究を行った。 近年五層系銅酸化物高温超伝導体において、反強磁性と超伝導の共存層が発見されている。これに対して、一層系のLa_<2-x>Sr_xCuO_4においては反強磁性相と超伝導相は分離して位置しており共存は見られない。これらの相図を微視的な理論から統一的に記述する試みはこれまで成功していない。本研究ではこの問題に対し、一層系や二層系のYBa_2Cu_3O_<6+x>において存在する電荷供給層の非一様性に起因するCuO_2面での強い乱れが電子間の強い多体相関効果によって増強されるという機構を提案し、これを記述する微視的な理論を構築し、その解析を行った。 相関効果による有効的な乱れの増大は電荷圧縮率の増大を伴って起こるこ,とがフェルミ液体論より明らかにされている。銅酸化物では低ドープに向かって電荷圧縮率が増大することが理論・実験両面から示唆されている。その結果、反強磁性と超伝導の競合領域において乱れの効果は増大し、一層系や二層系において見られるように反強磁性相と超伝導相の領域は互いに接点を失うように変化するという結果に至る。本研究では反強磁性臨界点に向かって増大するAslamazov-Larkin項を有効不純物ポテンシャルへの補正項として取り入れることにように理論を定式化し、乱れを有する拡張ハバード模型を解析した。この解析の結果、乱れが多体補正によって増大し、反強磁性相と超伝導相の接点が失われていく現象は銅酸化物高温超伝導体において実際に起こることが示された。
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