研究概要 |
本研究の主な目的は,非等方性多孔質体理論を用いて,複雑なバイオ伝熱系を取り扱い得る一般的解析手法を確立することにある.まず,生体組織を非等方多孔質体として捉え,生体伝熱の定式化を局所体積平均理論の基づき最小の仮定で実施した.その結果,生体組織全体を一括して取り扱いうるマルチスケールモデル(第48回日本伝熱シンポジウム,生体伝熱のマルチスケールモデリング,口頭,2011年6月1-3日)を確立した.本マルチスケールモデルより生体内の温度場の予測が可能となり,ハイパーサーミヤや凍結融解壊死療法の手術精度の向上が見込まれる.次に,本手法の応用として医療工学に焦点を当てた.人工透析器(ダイアライザー)に注目し,8000本を超える中空糸から構成されている人工透析器内の物質移動に対し非等方性多孔質体理論を適用した.その結果,血液と透析液間の物質移動における基礎方程式群(Sano Y, Nakayama A, A porous media approach for analyzing a countercurrent dialyzer system, ASME Trans. J, Journal of Heat Transfer)を導き,人工透析器の改良に資する情報を提示した.さらに,医療工学への応用として,人工心肺を考えた.人工心肺の巨視的物質移動の式(東海支部第61期総会講演会2012,人工心肺の数学モデル,口頭,2012年3月15-16日)を多孔質体理論より導出し,輸送論に基づく人工心肺の設計指針を示した.また,本手法の有用性を確かめるべくタワー型太陽光発電への応用を考えた.ボリューメトリックレシーバー内の局所非熱平衡モデルの解析解(Sano Y, Nakayama A, Effects of thermal dispersion on heat transfer in cross-flow tubular, heat exchangers, International Journal of Heat and Mass Transfer, Volume 48, Issue 1,pp.183-189)を導出した.その結果,レシーバー最大効率を迎える最適な気孔径が存在することが分かった.本研究を通し,バイオ伝熱のような構造が複雑な系の一般的な解析手法を多孔質体理論の統一的展開を考えることにより確立した.今後,本手法が活用されることにより,医療工学およびバイオ工学などのさらなる発展が期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,複雑なバイオ伝熱系を取り扱い得る一般的解析手法の確立,呼吸器内の物質移動現象の解明,生体組織全体を一括して取り扱いうる生体伝熱式の確立,さらに,医療工学への応用として、人工透析器と人工心肺の改良に資する情報の提示を行っており,当初の研究目的を全て完遂している.さらに,ボリューメトリックレシーバーなどに注目し,バイオ工学のみならず工学分野においても本手法の有用性を示したため.
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