研究概要 |
本年度は,昨年度に引き続き鉄・マンガン微小電極の開発を行った.特に直径0.1mm程度の電極表面を鏡面研磨することは非常に困難であったが,試行錯誤の結果,満足できる品質を安定的に得ることに成功した.室内において電極の性能を確認したのち,秋田県小坂町奥奥八九郎温泉・島根県太田市三瓶温泉において,野外における測定を行った.三瓶温泉では,堆積物表面近傍のマンガン濃度は水塊よりも有意に低く,またそれは藻類の光合成と密接に関係していたことから,微生物活動によってマンガン酸化物の形成が促されていることが示唆された.一方,奥奥八九郎温泉では高イオン強度温泉水による妨害のため,良質なプロファイルを得ることはできなかった.これについては今後,改善策を講じることが必要である. 次に,昨年度に確立した改良FISH法の新たな技術開発を行い,放射光分析との併用を可能にした.この手法を用いて,三瓶温泉の湯本付近に見られる微生物鉄堆積物を調べたところ,鉄酸化細菌の周りの鉄酸化物組成が無機的に形成されたものとは異なる特徴を持つことが明らかになった.これは縞状鉄鉱床の成因解明にもつながる成果であり,Environmental Science&Technology誌に論文を発表した. また,微小電極によって明らかになった「光合成誘導CaCO_3沈殿に適した水化学組成」についてまとめ,その結果を地球惑星科学連合大会・地質学会において発表し,Geochimica et Cosmochimica Acta誌にも論文を発表した.この結果を利用してシミュレーションを行い,石灰化シアノバクテリア化石から顕生代海洋の炭酸化学種組成を推定した.これは,これまで有用な指標のなかった古海洋の炭酸化学種を見積もる画期的な方法である.その成果を炭酸塩コロキウムにおいて発表し,また論文として投稿する準備も行っている.
|