研究概要 |
骨組織には,外的負荷に応じて内部に応力が生じる.骨組織に大きな応力が作用すると骨折のリスクが高まる.骨折の予防や防止には骨組織内部の応力を知ることが重要である.骨組織に作用する応力には,重力による静的応力,運動等により繰り返し作用する動的応力がある.また,生体組織特有の応力として,骨組織のリモデリングや骨修復時に骨細胞を活性化させる内在応力が存在する.これまでに無負荷時でも骨組織内部に残留応力があることが報告された.骨組織に内在するこれらの応力が測定できれば,骨リモデリングや骨折の治癒過程といった骨疾患の診断・治療に対して有益な生体内情報が提供される.X線回折法により骨組織内部のハイドロキシアパタイト結晶の変形状態から骨組織の残留応力を検出することができる.本研究では,(1)X線照射時間の短縮及び光学系の簡素化のため,X線IPを用いた骨組織残留応力測定法を提案し,(2)骨組織に内在する残留応力のメカニズムを明らかにすることを目的とした.最終年度である今年度は,X線IPを用いた骨組織残留応力測定手法を検討し,その有効性を検証した.また,残留応力のメカニズムを明らかにするため,以下の項目を検討した.皮質骨内オステオン密度と残留応力の大きさの相関関係に着目し,オステオン構造を含む皮質骨階層構造特性について調査した.また,シンクロトロン放射光白色X線を用いた皮質骨深層部残留応力測定手法を整理し,残留応力の釣り合いについて検討した.また,生後1ヶ月齢と2歳のウシの大腿骨を使用し,年齢による残留応力分布の違いについて調査した.以上により,(1)提案したX線IPを用いた骨組織残留応力測定法により,X線照射時間の短縮及び光学系の簡素化が可能となった.(2)骨組織残留応力の釣り合い状態および発生メカニズムについて明らかにできた.これより,研究実施計画を達成した.
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