研究目的はトリスタン・コルビエールを中心として、19世紀フランスの詩人たちが残した作品の韻律的分析を行い、コルビエールの韻律の意義を見直すことである。また、これに関連し、コルビエールが影響を与ええたであろう日本の詩人、中原中也にも目を配る。 日本フランス語フランス文学会での発表において「19世紀の詩型に関する一考察」と題して、コルビエールの詩集中最後の章である「のちのためのロンデル」をとりあげた。これによりコルビエールの使用したロンデルという詩型が、他の詩人たちのロンデルとは大きく違うことを指摘した。さらに、詩集そのものの構成にも目を向け、コルビエールの詩集『黄色い恋』そのものがさまざまな韻律を駆使したパノラマのごときものであることに言及し、「のちのためのロンデル」の章に所収されているロンデル群の韻律的特徴である回帰性が、中世への回帰などを象徴するのではないかという仮説を提出した。 また全国国語国文学会での発表では、中原中也の韻律をフランス詩人の韻律と比較しつつ分析した。中原中也の詩は語、音素、詩行、音節数、統辞的構造などあらゆるレベルでの繰り返しの構造に基づいたものであり、「輪舞のごとく旋回する反復の詩学」と位置づけた。 以上の日仏比較韻律論的研究を含む幅広い韻律研究により、コルビエールの詩のうち、とりわけ「のちのためのロンデル」の章の作品が、その反復構造において歌謡の韻律に近いものではないかと考えられる。
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